2026/06/25
シードルの歴史
ヨーロッパで育まれ、世界へ
シードルは、ワインやビールと同じように古い歴史を持つお酒です。リンゴを使ったお酒の歴史は古く、紀元前にはすでにその原型が存在していたといわれています。古代ローマ時代にはリンゴを潰して発酵させた飲み物が存在し、ローマ帝国の拡大とともにヨーロッパ各地へリンゴの栽培と醸造技術が広まっていきました。
特にシードル造りが盛んになったのは、気候が冷涼でぶどうの栽培(ワイン造り)が難しい地域です。フランス北部のノルマンディー地方やブルターニュ地方、イギリスのヘレフォードシャー州やサマセット州、スペイン北部などでは、寒さに強いリンゴが広く栽培され、修道院などを中心に醸造技術が洗練されていきました。中世以降、それぞれの土地の気候や食文化と結びつきながら、地域特有のシードル文化として定着していったのです。
日本におけるシードル文化の広がり
日本におけるシードルの歴史は、明治時代から大正時代にかけて始まったとされています。政府の殖産興業政策によって欧米からリンゴの苗木が導入され、青森県などを中心にリンゴ栽培が定着するとともに、リンゴ酒の試作が行われるようになりました。昭和初期から戦後にかけて本格的な製造・販売がスタートしましたが、長らくは一部の地域や愛好家の間で楽しまれる存在でした。
しかし近年、食の多様化やクラフトビールブームなどを背景に、シードルが再び大きな注目を集めています。全国のリンゴ農家や小規模な醸造所(シードルリー)が独自の商品を手掛けるようになり、長野県や青森県を中心に製造が広がっています。現在では日本産シードルの品質が世界的な品評会で高く評価されるまでに成長しており、地域ごとの個性豊かなシードルを通じて、土地の風土や文化を感じ取れるのもシードルの大きな魅力です。
呼び名は国で変わる
~「シードル」と「ハードサイダー」~
リンゴを原料としたお酒は世界中で親しまれていますが、実は国や地域によってその呼び名が異なります。ここでは、代表的な名称の違いと、それぞれの背景について解説します。
日本で使われる「シードル」という呼び方
日本において、リンゴのお酒は一般的に「シードル(Cidre)」と呼ばれています。これはフランス語に由来する名称です。
日本のリンゴ酒造りは、主にフランスの製法や文化を手本にして発展してきた歴史があるため、フランス語の「シードル」という呼称が広く定着しました。国内のレストランや酒販店などでも、基本的にはこの名称で扱われています。
海外で使われる「ハードサイダー」という名称
一方、英語圏では呼び方が異なります。イギリスやオーストラリアなどの国々では、リンゴのお酒を英語で「サイダー(Cider)」と呼びます。現地のパブでは、ビールと並んで提供される定番のアルコール飲料として日常的に親しまれています。
ただし、アメリカでは少し事情が異なります。アメリカでの「サイダー」は、アルコールを含まない無ろ過のリンゴジュース(アップルサイダー)を指すのが一般的です。
そのため、アルコールを含むリンゴのお酒については、ジュースと明確に区別するために「ハードサイダー(Hard Cider)」と呼ばれています。近年は日本国内でも、アメリカンスタイルのクラフトビールに近い製法で造られたリンゴ酒を「ハードサイダー」として販売するケースが増えています。
まとめ
長い歴史の中で、それぞれの土地の気候や食文化と結びつきながら育まれてきたシードル。グラスの中には、リンゴが実った土地の風土と、造り手のこだわりが詰まっています。ぜひ産地や製法の違いに思いを馳せながら、一杯を楽しんでみてください。